ASICメーカーというと、Bitmain社が一大勢力として市場シェアを大きく握っており、他のメーカーに関しては日本国内でも知名度は高くなく、マイナー企業からもあまり知られていないのが実状です。
しかし近年、新興マイニングマシン(ASIC)メーカーとして中国に拠点を置く「Canaan」などの企業を筆頭に、アメリカを拠点とした「Obelisk」など、いくつかのメーカーが台頭してきています。
本記事では、日本国内のマイナーにも知っておいてもらいたい、これから市場シェアを拡大していくかも知れない注目のASICメーカーをご紹介していきたいと思います。
Innosilicon(イノシリコン)について
Innosiliconは中国に拠点を置き、マイニング機器の製造を行う半導体メーカーです。
高性能PHY(物理層に機能を実装するチップ)とmixed signal IP(アナログとデジタルの相互運用)に重点を置いた、世界規模の革新的なファブレスIP/IC設計会社として知名度を広げています。
Innosilicon社が提供しているマイニング機器の対応通貨としては「BTC」「Ethereum」「Zcash」「Litecoin」「Grin」「Dash」「XMC」「Decred」の8種類から選択することが可能です。
企業概要
Innosilicon社は中国湖北省武漢市に2006年に設立された、比較的歴史の長いASICマイナーです。
当社では、多くの有名企業が「System on a Chip(SoC)」を活用してビジネスを成功させることをサポートしており、年間で3,000万個以上のチップを生産しています。
Innosilicon社が提供するSoCチップは仮想通貨マイニング機器だけでなく、スマートフォンやカメラなど様々な電子機器に利用されています。
CEOの Gordon Ao(ゴードン・アオ)氏について
Innosilicon社のCEOであるGordon Ao氏はカナダ・トロント大学で学位を取得したのち、シリコンバレーで15年間以上の技術職とマネージメントの経験を積んだ経歴を持ちます。
2014年に最初のビットコインASICマイナーの1つとしてInnosilicon社を設立しました。
Gordon Ao氏はマイニングビジネスに関して「独自のサイクルでかつ独立した業界であり、長期間でビットコインの価格変動を認識している」と前置きした上で、「現在は弱気相場となっているが、個人的にはマイニング界における将来性を信じており、この機会にマイニング技術の発展に努めている」と意見を語っています。
Innosilicon社の特徴は?
Innosilicon社の特徴としては、低コストで高性能、中国と北米での複数拠点を軸とした生産体制、自由にカスタマイズ可能なサービス提供などが挙げられます。
提供している顧客設計サポートは受賞歴もあり、安心してユーザーにご利用頂けるサポート体制を提供しています。
Innosilicon社の歴史について
ここからはInnosilicon社にとって大きなニュースとなった過去の提携情報などをご紹介していきます。
サムソン社との提携
2018年にはInnosilicon社と韓国のSamsung社が提携し、ビットコインとイーサリアム向けのマイニング製品が発表されています。
InnosiliconではSamsungが提供する低電力FinFET技術を利用したマイニング製品を開発しました。
カナダのクラウド企業Cloudminterとの提携
2018年にはカナダ企業Cloudminterとの提携も発表されました。2018年第4Qよりカナダ東部に300MW級のマイニング施設を操業するためです。
ロシア市場への本格参入
2019年にはロシア市場に本格参入するニュースも伝えられています。
モスクワのスコルヴォで開催されたTech Week2019の展示会にInnosiliconも参加し、BTCマイナーである「T3-43T」をはじめとした主要なマイニング製品のデモを行いました。
Obelisk(オベリスク)について
ObeliskはPoWマイニング市場が一部企業による独占状態となり、顧客サービスや基本的な品質よりも企業利益を優先した状態になることを懸念し、信頼出来る健全で競争力のあるPoWエコシステムを達成する目的で作られた企業です。
企業概要
Obeliskは2017年6月に設立されたばかりの新しいASICメーカーです。
ObeliskではPoWマイニング機器の設計と製造を行なっており、ボストンを拠点として、アメリカ国内でハードウェアの製造を行なっています。
Obelisk社のCEO David Vorick氏について
Obelisk社のDavid VorickCEOは分散型クラウドストレージプラットフォームSiaのCEO及びリード開発者でもあります。
Obelisk社のマイニング機器で採掘可能な「Siacoin」はSiaプラットフォーム上の仮想通貨です。
David Vorick氏はRensselaer工科大学でコンピューターサイエンスを学び、大学4年次にSiaの親会社に当たる「Nebulous」を共同設立しています。
Obelisk社の特徴は?
Obelisk社が提供しているマイニング機器は、現在までのところマイニング対象として「GRIN」「Siacoin」「Decred」を採掘することが可能です。
今後ビットコイン(BTC)をはじめとした主要コインのマイニング用機器の生産を予定しているとの情報も出ています。
Obelisk社の目標として、健全で強力なPoWエコシステムの実現を掲げており、ソフトウェア・ハードウェア共に全ての工程をオープンソース化させることを目指しています。
GRN1プロジェクト中止へ
Obelisk社の主力製品とも言えるGRN1プロジェクトですが、2019年6月にプロジェクトの中止が発表されました。
関心が薄れてしまったことと資金不足がプロジェクト中止の理由として説明されています。
ASICプロジェクトは非常に高価で、プロジェクトを完了させるためには十分な資金を揃える必要があり、様々な障壁が出てきます。
Grin開発者が健全なマイニングエコシステムを作成するために設定した「分割ブロック報酬」システムも最大の障壁となってしまったようです。
Grinプロジェクト自体が暗号通貨市場で大きな牽引力を持ち合わせていないことも影響し、資金調達には十分な期限を設ける事が出来ませんでした。
出荷日を遅らせて再挑戦することも出来ましたが、Obeliskとしてはほぼ完了していたGRN1プロジェクトを中止することに決めたと説明されています。
Canaan(カナン)について
Canaanは中国ASICメーカーの中でも、同じ2013年に設立されたことから「Bitmain」や後述する「Ebang」と頻繁に比較される中国企業です。
「Bitmain」が事実上ASICメーカーの覇権を握っている状況ですが、同じ中国企業の「Canaan」「Ebang」も第2第3勢力としてシェア率を伸ばしており、Bitmainと合わせて世界市場シェア率の90%以上にのぼるとされています。
売上規模については公開されていませんが、代表的な製品「Avalon」については2017年に10億元(150億円)以上の収益を上げたと報道されたこともあります。
また従業員規模についても不明ですが、2018年時点では、研究開発員だけで約200人を雇用していると報道されています。
企業概要
Canaanは2013年Nangeng Zhang氏により設立されたブロックチェーンサーバーとASICマイクロプロセッサーを専門に扱う企業です。
中国杭州に拠点を置き、現在Nangeng Zhang氏を筆頭に11名の取締役会を持つ企業に成長しています。
創業者であるZhang氏は、電子デバイスの分野で11年の経験があり、現在もCanaanにおいて全体的な開発戦略や運用・監督の業務をこなしています。
Canaan社のCEO N.G.Zhang氏について
N.G.Zhang氏は北京航空航天大学で学士・修士・博士号を取得しました。
2013年に「Canaan Creative」を設立し、会長兼最高経営責任者としてのポジションについています。
ブロックチェーンのハードウェア業界に参加して以降、最初のASICマイナー製品として「Avalon」を開発した本人でもあります。
Canaan社の歴史について
N.G.Zhang氏が博士号取得を目指して学習中の2013年に「Canaan Creative」が設立されました。
深セン証券取引所上場企業に対する逆さ合併へのチャレンジ
Canaan Creatvieでは、設立後3年が経過した2016年に深セン証券取引所に上場している「Shandong Luyitong」に対して、466 Millions USDという高額を提示して、逆さ合併(規模の小さい企業を存続させ、大規模会社と合併すること)を試みる動きを見せました。
アメリカでのIPOを検討か?!
最新ニュースとしては2019年に、アメリカの証券取引所でIPOを検討しているとのニュースも上がってきています。
Canaan社の特徴は?
Canaan社は工場を持たないIC設計企業で、サードパーティの供給会社と密に連携し、IC製品の製造・テスト・パッケージ化を行います。
「AvalonMiners」の製造工程では、Canaan社が作成したICと関連する部品を組み立てることでビットコイン用マイニングマシンを製造しています。
今後の展開として、ブロックチェーン・コンピューティングパワーを備えた家電製品や、「コイン・マイニングテレビ」などの開発も予定されているようです。
Ebang(イーバン)について
EbangはR&D(研究開発)、生産、販売、サービスを統合する国家的なハイテクノロジー企業です。データ通信機器とブロックチェーンコンピューティング用の機器を主な製品として取り扱っています。
Ebangは香港証券取引所に対して「Canaan Creative」に次いで2番目にIPO申請を行った企業となります。
企業概要
Ebang Communictionは2010年1月に中国を拠点として設立されたマイニング企業で、中国語では「翼比特」と書きます。
上述したように「Bitmain」や「Canaan」社と比較される3大ASICメーカーの1つです。
ブロックチェーン事業では、集積回路設計とチップをEbang独自で研究・開発しており、独自開発したパーツを活用して高性能なブロックチェーンコンピューティング機器を提供しています。
Ebangの研究開発センターは杭州・上海・武漢・蘇州に展開しており、140人以上の研究開発チームで構成されています。
研究開発チームのコアメンバーは10年以上のキャリアを誇り、信頼出来るメンバーが日々機能改善を担当しています。
またEbangでは同時に、サムスンおよびTSMC(半導体製造ファウンドリ)と提携し世界最高のサプライヤーとしての役割も果たします。
Ebang社のCEO Hu Dong氏について
Ebang社のCEO Hu Dong氏は、2008年に浙江大学を卒業しMBAを取得しました。
2013年~2015年には北京大学で情報通信工学を学び、博士号を取得しています。
Ebang社は2010年に設立し、情報通信技術で社内外問わず設計リーダーとして活躍しています。
Ebang社の歴史について
Ebang社の注目ニュースについてもいくつかご紹介していきます。
地方自治体から杭州の工業企業トップ10に選出
2018年、Ebang社は杭州の工業企業トップ10に選出された経歴を持ちます。2017年には15.9万台、2018年には30.9万台のマイニング機器を販売した実績が考慮されての結果となります。
香港証券取引所へのIPO申請
Ebang社では香港証券取引所へのIPO申請を2018年6月に申請し、結果2019年6月に申請の期限切れとなった経緯があります。
Ebang社では最後まで更新申請手続きを進めていましたが、結果としてはBitmain社・Canaan社と同様にIPO失敗となってしまいました。
香港証券取引所へのIPOは失敗に終わりましたが、2019年現在米国でのIPO申請を行うとの情報も出てきています。
2019年ビットコイン価格が持ち直しており、マイニング機器生産目標も大幅増加
2018年は仮想通貨業界全体にとって厳しい1年となりましたが、2019年ビットコイン価格の上昇から、Ebang社ではマイニング製品の年間生産目標を40万台と設定しています。
2017年の生産量から2.5倍近くの数値を設定しており、強気な姿勢が見られます。
Ebang社の特徴とは?
Ebang社では下記の3つのビジネスで企業を運営しています。
1. 集積回路設計ビジネス
2. ブロックチェーンビジネス
3. テレコミュニケーションビジネス
Ebang社は将来的に「集積回路設計」「ビッグデータ産業」「技術革新」の3本柱でブロックチェーン産業の拡大を目指し、新たなサービスの開始や既存ビジネスのアップデートなどビジネス形態の多様化にも対応し、世界中で強力な市場価値を確立することを目標としています。
まとめ:Innosiliconを筆頭に注目のASICメーカーを把握しておこう
本記事では、ASICメーカー最大手の「Bitmain」社に続く4つのASICメーカーについてご紹介してきました。
日本国内では「Innosilicon」や「Obelisk」が人気のメーカーですが、海外に目を向けてみるとBitmainに次ぐ2位には「Canaan」3位には「Ebang」と中国メーカーが台頭しています。
上位3社はそれぞれ、香港証券取引所へのIPOやアメリカでのIPOに挑戦するなど企業の規模拡大・資金調達への取り組みを積極的に行っています。
業界最大手のBitmain社と合わせて、今回ご紹介した4メーカーについては今後の発展にも期待されているため、マイナーとして最新情報を追っておくことをオススメします。
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